彼此ともつかぬ場所


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□ 銀色の守護者 □

 住宅街から少し外れた山の中を、ひっそりと抜けるこの小道には、昔、電車の線路が敷かれていたらしい。もしもそれがまだ現役だったら、電車通学ができたかもしれないのに。うら寂しい道を一人とぼとぼと歩きながら、僕は溜め息を一つついた。
 休みの日など、『廃線跡を訪ねて』なんて本を持った人が、苔むした電柱や崩れかけたホームの跡を見ては、「おお」とか「ああ」とかいちいち感動しながらカメラを向けているのに出くわすことがある。「素敵な通学路ね!」と見知らぬオバサンに話しかけられたこともあったけど、街灯は少ないわ、足元は悪いわ、変質者すら寄りつかないこんな辺鄙な道が「素敵」だとか、絶対どうかしてる。
 だいたい、このあたりは学区の端っこも端っこで、こっちに家がある奴はクラスでも部活でも僕一人だ。小学校の時も、微妙に僕だけ家が離れていて、集団登校が面倒だった覚えがある。「素敵」とかほざく奴は、毎日三キロの道のりを徒歩通学する子供の気持ちにもなってみろってんだ。マジで。
 両脇に生い茂る木々のせいで、まだ五時だというのに辺りはすっかり薄暗い。足元に注意しながら道を急いでいると、少し開けた場所にやってきた。
 かつては信号所だったらしい、小さなコンクリート造りの建物が、広場の端に立っている。窓も扉も板で厳重に塞がれた姿は、いかにも廃屋といった感じで、夕闇の迫る中見れば結構ホラーだけど、昼間は小学生の秘密基地ごっこや戦隊ごっこの格好の舞台だ。僕も、子供の頃は、この扉の向こうに異世界を想像したものだった。
 大人になる、ということは、夢を失うことと同義なんだな、なんて、たまには歳相応に中二らしいことを心の中で呟いてみた、次の瞬間、僕は我が目を疑った。
 信号所の扉が、開いている。
 思わせぶりに、二センチほど。薄く扉が開いている。しかも、その隙間がぼんやりと光っている。虹色に。
 普通に灯りが漏れているだけならば、余計なリスクを避けて全力でスルーしたと思う。でも、これはどうよ。赤だったり青だったり黄だったり、色んな色がもやもやっと混ざって光っているとか、ちょっと様子を窺ってみたくならないだろうか(反語)。
 僕は、そっと信号所に近寄った。全神経を集中させて、辺りの音や気配を探る。
 扉の隙間の光以外に、変わったところはないようだった。
 念には念を入れて扉の前に立たないようにして、僕は拾った木の枝で扉をそっと突っついた。
 隙間が少し広がり、その分漏れる光が強くなった。
 だが、しばらく待ってみても、何も状況は変わらない。
 僕は腹に力を入れると、扉が開く方向へ思いっきり枝を動かした。
  
 光が、ほわん、と周囲に広がった。
 それ以外に、状況に変化はない。
 恐る恐る扉の中を覗いてみると、ドア枠いっぱいに、何とも言えない不思議な光が満ち満ちていた。
 テレビの特番で見たことのある、大昔の特撮番組が、こんな感じで異世界感を演出していたような気がする。色んな色が混ざり合った結果、なんとなく銀色っぽくなってしまった、みたいな、掴みどころのない光。それが、廃墟となった信号所の、開け放たれた入り口から溢れんばかりになっている。
「……なんだ、こりゃ」
 もしかしたら、違う世界への扉が開いたのだろうか。まさかね、と思いながらも、僕はその戸口から目を離せずにいた。不可思議な光は、まるで何か意思を持った生き物のように、絶えず色味を変えながら、ドア枠の中を満たしている。
 さっき扉をあけた時、持っていた枝を勢い余ってどこかに飛ばしてしまったらしい。代わりになるものが欲しくて、僕は制服の胸ポケットに手をやった。手探りでシャーペンを取り、その先端をそっと光へ近づけてみる。
 手が震える。唾を呑み込んだ音が、痛いぐらいにこめかみに響く。
 まばたきする余裕すら失くして、僕は目を見開いたまま、ゆっくりとシャーペンの先を光の中へと沈めていった……。
「抜いて! 手を! 早く!」
 ただ事ならぬ声が響き渡り、僕は死ぬほど驚いて一歩後ろに飛びずさった。
「無事? なぁ、無事? 手ぇ入れた? 手ぇ、無事?」
 こてこての関西弁にも度肝を抜かれ、慌てて背後を振り返る。
 銀色の肌、大きな丸い目。
 そこには、絵にかいたような「宇宙人」がいた。
  
「う、う、ううううちゅう……」
「ちゃうねん! これでもアタシれっきとした地球人やねん! こんな格好してるんには、深い理由があるねん!」
 だから大声で叫ばんとって! と、宇宙人が両手を合わせて拝んできた。
 喉まで出かかっていた悲鳴をなんとか呑み込んで、僕は宇宙人から三歩距離をあけた。
「ごめんなー、驚かせて。落ち着いた? な、落ち着いた?」
 どう見ても宇宙人な自称地球人は、野太い声で可愛らしく小首をかしげた。
「こうなったからには、一通り説明させてくれへん? それか、何も見なかったことにして、このまま何も聞かずに帰る、って選択肢もあるけど?」
 宇宙人にも「おネエ」という性別があるんだろうか。いや、「おネエ」は「性別」じゃない。軽く混乱しながら、僕はやっとの思いで声を絞り出した。
「せ、説明?」
「そ。そこの、ぶわーっと光ってるやつが気になってたんとちゃうん?」
「あ、まあ……」
 のっぺりとした銀色の顔が、微かに笑ったような気がした。
「んじゃ、仕切り直して。アタシはトモミ」
「あ、ぼ、僕はアキラ……」
 宇宙人(しかもおネエ)と和気藹々と自己紹介しあうとか、一体どんな罰ゲームだろう。引きつった頬を見咎めたのか、宇宙じ……いや、トモミが、小さく肩をすくめた。
「こんなスーツ着ずにすんだらエエねんけど、そういうわけにもいかへんから、ごめんなー。びっくりしたやろー?」
「スーツ!?」
 僕の叫びに、宇ちゅ……トモミは、心なしかムッとしたように見えた。
「だから、最初に言うたやん。宇宙人ちゃうって。言っとくけどな、これでも日本ひのもと初の女性界面管理技術者やねんで。で、その界面管理技術者ってのが……」
「女の人!?」
 驚きのあまり、思わず正面から指まで差してしまった。失礼に気づいて、慌てて手をおろす。幸いなことに、トモミは僕の無礼を気にしていないようだった。
「いや、ちょっと、ツッコミ入れるの、そこ? そこなん?」
「だって、声が……」
「ああ、これな、このスーツの仕様やねん。位相変調する際に周波数が下がってしもうて、声が実際よりも低く聞こえてしまうみたいやねん」
 野太い声のまま、トモミが「てへっ」と笑った。やっぱり、おネエ、としか思えない。見た目、おネエの宇宙人。
「驚かんといてな。アタシ、実はこの世界の人間とちゃうねん」
 銀色の光に照らされて、トモミが思わせぶりに囁いた。



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Date:2009/11/16
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